最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)57号 判決 1950年7月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
理由
上告代理人弁護士岡田喜義上告理由第一点について。
原判決の確定した事実によれば本件家屋の賃借人加藤豊七は昭和二一年七月二六日死亡し、その相続人のあることが分明でないため相続財産は法人とされ本件賃貸借も右相続財産との間に存続することとなつたのであるが、上告人加藤さだは右賃借人加藤豊七の内縁の妻であつて、豊七死亡後引き続き本件家屋に居住しているというのであつて、原判決は、かくのごとき場合同上告人の右家屋に対する居住権が認められるのは右賃借権の存続する限り他日相続人が判明した際、被相続人の内縁の妻の居住の継続が必ずしも相続人の意に反するものとは限らないからであるに過ぎないとした上、しかも右相続財産は本件賃借権を除いては殆んど皆無で、将来において相続人を得る見込もないとの事実を確定し、一方本件家屋の所有者たる被上告人側において、本件家屋の使用を必要とする判示のごとき諸般の事情関係を認定し、彼此綜合するときは、上告人加藤さだの移転先きのないという主観的事情如何にかかわらず被上告人は本件解約申入を維持するについて正当な事由を有しているものと認めるを相当とすると判断したのであつて、原判決の右判断は正鵠を得たものというべく、論旨は上告人加藤さだの本件家屋居住に関する原判示のごとき地位関係を考慮せず、只一図に被上告人側との比較においてその使用の必要の大なることを強調するに過ぎないのであつてこれを採用することはできない。
同第二点について。
原判決は前点説示のごとき関係において、被上告人側における本件家屋の使用を必要とする事情を認定するにつき、「現在の住居は起居に使用する室は六畳一間しかなく」又被上告人は本件家屋の外に訴外山口健二夫妻の居住する判示のごとき家屋を所有しているが右家屋は狭隘で、被上告人の居住の目的に適しない旨を説示したのであつて、原判決挙示の証拠によれば右の事情関係は、これを認めることができる。右認定について所論のような審理不尽の違法あることは認められない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し主文のとおり判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)